Saturday, March 13, 2010

Say Yes/Elliot Smith


 エリオット・スミスという歌手の、Say Yesという曲がある。
映画「Good Will Hunting」などで彼の曲を聴いたことがあるという人はいるだろう。
ただし、世間的には殆ど無名なまま、若くしてこの世を去った、夭折の人である。

先日この曲の歌詞について、友人と話す機会があった。色々な解釈が出来るこの詩だが、やはり、最後に印象として残るのはなにより「なんか美しい」、「なんかいびつだけどキレイ」な点だなあ、と、そんな話になった。歌われている状況・設定については、おそらく人それぞれ違った解釈があるんだと思う。ただ、歌詞だけを見ると、酔っぱらいが飲んだくれて、去ってしまった女に対しての未練を2分半に渡って綴るソネット、といったのが訳す前の印象だった。しかし、やはり名曲というのは不思議なものでそんな下世話な思惑をよそに何度も聞き返してしまうもの。そんな曲としての奥深さも魅力の一つだろうか。様々な解釈が出来るこの曲について、自分なりの、そして「今」という時間軸で切り取った訳詞と解釈をここに試みてみたい。


訳してみてまず気がつかされたのは、微妙なニュアンスが非常に難しいということ。導入部分の"I'm in love with the world〜"の部分なんて、英語で聞くと非常にきれいな流れになっていてわかりやすいのだが、日本語に訳すと、どうしても修飾された部分を訳すのに労力が要る。結果、訳詞の最初と最後では違う言い回しにしてみた。導入の部分では、なるべく情景が日本語としてわかりやすいように工夫してみた。逆に、最後のリフレインは、直訳に近い形で原文に忠実に。非常に繊細な曲だと思うから、自分が詩とにらめっこして、浮かび上がってくる情景に忠実に描いてみた。修正・訂正などあれば、是非指摘頂きたい。

こうして、詩とにらめっこして、向き合った結果、今まで曲を聞きながら漠然と描いていたイメージをより緻密に言語化できたのではないかなと思っている。それはどんなイメージかというと、何か普遍的なもの、という抽象的な表現になってしまうが、「男女間の関係」だったり、「人を愛する」というシンプルなテーマだからなのかな、と思う。個人的にこの曲で好きなのは、最初と最後の2行が一語一句同じなのに、全く違った響きを持っている事だ。最初のラインでは、何か思い出すように、物語の始まりを予感させる響きを持っているのに対して、最後のラインでは、同じフレーズを用いながら、どこか、物語が終わった「読後感」のような雰囲気を漂わせている。ほぼ全て一人称で語りかけるスタイルの詩だから、和歌のように語り部の内面部分を歌っていて、いろいろな感情の起伏がありながらも、最後のラインを歌い切る頃には、語り部の成長というか、感情の区切りが感じられる。一度聞いただけでここまでの事を感じることが出来る人は少ないと思うし、たかが一曲にここまで労力を使うのは尋常ではないかもしれない。だけど、音楽というのはスペル(spell = 魔法、まじない)だから、作品のこうした仕掛けを読み込んで(聞き込んで)楽しむというのもまたアリなんじゃないか?なんて思って今回、訳詞と解説に取り組む事にした。自分の気に入った曲や面白いと思った曲、思い出のある曲などを月一くらいのペースでやっていきたいと思っている。あくまで趣味として、自分の生活をより楽しむために。

エリオット・スミス自身は純粋な職人作家的シンガーソングライターであったため、世に言う「ヒット作」には恵まれなかった(今回は、彼のパーソナリティ=内面/生涯ではなく、作品にフォーカスを絞りたいので、細かな説明は割愛)。そんなエリオット・スミスだが、1997年公開の映画「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」の主題歌として彼の曲が選ばれ、米国でも一躍「時の人」となった。この"Say Yes"は、劇中では、主人公の二人が最初のデートをしたシーンで使われている。マット・デイモン演じる主人公の天才が故のナイーブさとこの曲がもたらす黄昏の夕日のようなじんわりとして暖かみが、春の雪解けを感じさせてくれるようでなんかほっとする。そんなじんわりした暖かみを持った曲ということで今回ピックアップした。
余談だが、恋人役の女優もいい。特に、ブリティッシュ・アクセント全開で喋るところ。なんか気品があって、色気がある。

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"I'm in love with the world through the eyes of a girl
who's still around the morning after
we broke up a month ago and I grew up I didn't know
I'd be around the morning after

it's always been wait and see
a happy day and then you pay
and feel like shit the morning after
but now I feel changed around and instead falling down
I'm standing up the morning after

situations get fucked up and turned around sooner or later

and I could be another fool or an exception to the rule
you tell me the morning after
crooked spin can't come to rest
I'm damaged bad at best
she'll decide what she wants
I'll probably be the last to know
no one says until it shows and you see how it is
they want you or they don't
say yes

I'm in love with the world through the eyes of a girl
who's still around the morning after "

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"朝まで付き合ってくれた彼女。その彼女の目を通して見た世界。
僕はその世界に恋に落ちた。
別れて一ヶ月が過ぎ、知らないうちに成長したのだろうか。
まだ気持ちの整理はついていない。

いつも待ってばかりさ。幸せな日とそうじゃない日が来るのを。
朝になり、自分がゴミのような気分を味わう。
だけど、変化を望む声もあって、朝になれば動き出すんだ。

状況はどんどんおかしなことになっていき、近い将来何かを引き起こす。

そして、いつの日か僕が単なる間抜けだったのか、

はたまた「ルールの適応外(=天才)」だったのかが分かる日も来るんだろう。
ヒソヒソ話はなかなか落ち着かず、それは僕を最高に傷付ける。
彼女が自分で決めるべきだ。そしてそれを僕が知らされるのはきっと最後になる。

結果が明らかになるまでは皆口を閉ざしたままなんだろう。
「ヤツラ」は君を欲しがるか、首を横に振るか、どっちかなんだから。

彼女の目を通して見た世界に恋をした。ひどく酔っぱらって迎えた朝に。"

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